世界の先端(せんたん)研究に貢献(こうけん)する「1細胞(さいぼう)ハンドリング」に特化した装置の設計開発技術で、業界をリードするヨダカ技研株式会社。1細胞(さいぼう)研究は、がんなどの病気解明、iPS細胞(さいぼう)による再生医療(いりょう)研究、食品の生産性向上などのさまざまな分野で使われています。
代表取締役(とりしまりやく) 平藤(ひらふじ) (まもる)さんにお話を(うかが)いました。

生命科学の分野で大きな注目を浴びる1細胞(さいぼう)研究とは?

1細胞(さいぼう)研究は、主に「遺伝子解析(かいせき)」と「培養(ばいよう)」の2つの目的で用いられます。※画像作成・平藤(ひらふじ) (まもる)さん

1細胞(さいぼう)は、聞き慣れない言葉だと思います。1細胞(さいぼう)、単一細胞(さいぼう)、シングルセルなど、さまざまな呼び方がありますが、ここでは1細胞(さいぼう)と呼びます。1つの細胞(さいぼう)は、遺伝子を始めとしたさまざまな情報を秘めています。

1細胞(さいぼう)が保有する情報の研究は、たとえば「見なれない細胞(さいぼう)の正体を知りたい」「ビールの生産量を増やせないか?」といった遺伝子解析(かいせき)※1培養(ばいよう)※2に用いられており、現代の最新ライフサイエンスの現場では欠かせないものとなっています。

1細胞(さいぼう)研究によって、病状確定診断(しんだん)装置、がん診断(しんだん)装置、アルツハイマー研究、iPS細胞(さいぼう)培養(ばいよう)、体外受精などの研究や事業・産業が実現しており、今後もさまざまな研究開発につながることが期待されています。「1細胞(さいぼう)研究からすべては始まる」といっても過言ではないでしょう。ヨダカ技研は、この1細胞(さいぼう)研究の(いしずえ)となるハンドリング装置を開発しています。

  • ※1 遺伝子解析(かいせき):生物の設計図である遺伝子の情報を解明する研究。
  • ※2 培養(ばいよう):生物・(きん)・バクテリアなどから取り出した細胞(さいぼう)を、生体の外で生かし続けること。

理化学分野の研究をサポートする1細胞(さいぼう)研究ハンドリングシステム

ヨダカ技研が独自に開発した振動(しんどう)抑制(よくせい)(ちょう)微小(びしょう)液量吸引吐出(としゅつ)ポンプ(TOPickポンプ)と搬送(はんそう)用ロボットをタッチパネルで簡単に操作できる、1細胞(さいぼう)ハンドリングシステム。

どの分野であっても1細胞(さいぼう)研究では、まず顕微鏡(けんびきょう)を用いながら1個ずつの細胞(さいぼう)を採取していく必要があります。1細胞(さいぼう)ハンドリングシステムは、(だれ)でも簡単に操作できるタッチパネルによって、1個の細胞(さいぼう)をガラスキャピラリー(ガラス毛細管)に吸引・移動し、解析(かいせき)用・培養(ばいよう)用の容器内で観察できます。1細胞(さいぼう)ハンドリングシステムでは、異物混入もなく、これら一連の作業を、正確に安定して実施(じっし)することができます。

今後も1細胞(さいぼう)()(あつか)うために有用な技術を、大学や官庁の研究機関から柔軟(じゅうなん)に取り入れて製品化し、日本の理化学分野の1細胞(さいぼう)研究をサポートしていきたいと思います。

()にヒントが?モバイル型投薬・点滴(てんてき)デバイス「atDose」

微細(びさい)な量の薬剤(やくざい)を、患部(かんぶ)に直接投薬できるモバイル型投薬・点滴(てんてき)デバイス「atDose」。

ヨダカ技研が開発した(ちょう)微小(びしょう)液量操作技術を使ったモバイル型投薬・点滴(てんてき)デバイス「atDose」は、(かみ)()ほどの極細い注射針(マイクロニードル)と、(ちょう)微小(びしょう)液量を連続送液できるポンプで構成されています。残量センサーや電子基板を搭載(とうさい)しており、IoT(モノをインターネットとつなぐこと)化を実現。スマートフォンとデバイスをつなげることで、薬剤(やくざい)量の調整がリモートでもできます。一般的(いっぱんてき)点滴(てんてき)は、管や輸液バッグ、スタンドをつけて患者(かんじゃ)さんの行動を制限し、残量も目視確認(かくにん)です。「atDose」は、こうした不便を解消し、患者(かんじゃ)さんと医師双方(そうほう)の利便性を増します。

マイクロニードルは、「()()されたときに痛くないのはなぜか?」という、()穿刺(せんし)メカニズムの応用から開発された技術です。針先が丸いと皮膚(ひふ)()さったときに痛みを感じるので、()の口針を模倣(もほう)したソード((けん))型の針先となっています。マイクロニードルは、たとえば末期がん患者(かんじゃ)さんの腫瘍(しゅよう)の痛みをやわらげるために、直接患部(かんぶ)薬剤(やくざい)投与(とうよ)するなどの活用方法が考えられます。

治療(ちりょう)方法を根本から変える画期的な「atDose」は、KBICで研究所を立ち上げた仲間と一緒(いっしょ)に、新たな会社を起こして現在独自に展開しています。さまざまな人や情報と出会い、ネットワークが出来上がっていくのも、KBICで研究開発している利点のひとつです。

夜空に(かがや)くよだかの星のように—テクノロジーによる社会課題の解決をめざす

病気、温暖化、紛争(ふんそう)、少子化、高齢(こうれい)化、格差社会…、社会的課題が渦巻(うずま)く中、これらを解決していくためには、本質的な原因解明が必要となります。その際に原因を推測のみで断定するのではなく、きちんと特定するためにはさまざまな技術手法や計測装置がカギとなります。
昔から新しい重要な発見は、新しい計測装置によってもたらされてきました。

たとえば天秤(てんびん)であり、顕微鏡(けんびきょう)や望遠鏡、電流電圧計などです。「燃える」という現象が「酸素」の存在によって起こるのが特定されたのは天秤(てんびん)のおかげですし、いくつかの病気が病原菌(びょうげんきん)によって引き起こされるのが特定されたのは顕微鏡(けんびきょう)のおかげです。

みんながまだ気づいていない不便なことを解決するには、世の中にないものをつくる必要があります。「それが完成すれば、(だれ)かが助かる」ということが大切だと考えて開発を続けています。新しい科学的な発見が新しい技術を生み出し、また新しい発見につながるという循環(じゅんかん)を加速し、社会的課題を解決することを、ヨダカ技研はめざしています。

ちなみにヨダカ技研の会社名は、宮沢(みやざわ)賢治(けんじ)の童話『よだかの星』から名付けました。鳥の仲間から仲間はずれにされて居場所を失い、命をかけて夜空をめざして飛び続けた孤高(ここう)のよだか。いつしか青い美しい光となって今も静かに燃え続けているよだかの星のように、ヨダカ技研も研究開発への情熱を燃やし続けています。

日本が(ほこ)る技術を()かして、世の中にないものをつくる

日本のほとんどの技術は、明治後期から大正時代にかけて、イギリスの産業革命によって生み出されたものが、イギリス、ドイツ、アメリカからもたらされました。

それとは別に、日本には独自の技術として、寺社建立(こんりゅう)などで用いられる「木組み※3」や「織機(しょっき)」、酒造りなどの「発酵(はっこう)※4」などがあり、これらとのシナジーにより構築された欠かせない技術もたくさんあります。

中でもラック・アンド・ピニオン(回転力を直線の動きに変換(へんかん)する歯車の一種)やモーターの技術は、さまざまな駆動(くどう)装置に採用され、加工機や自動車、顕微鏡(けんびきょう)などに応用されています。「発酵(はっこう)」の技術は、創薬、加工食品、化学合成などに応用されています。

また光学顕微鏡(けんびきょう)の世界4大メーカーは、日本とドイツの企業(きぎょう)()められています。日本の独自技術を見直していくと、まだまだ世の中にないものをつくる可能性が秘められている気がします。

  • ※3 木組み:金物を使用せずに、木材に()()みを入れて、はめ合わせて組み立てていく日本の伝統工法。
  • ※4 発酵(はっこう):目に見えない微生物(びせいぶつ)が有機物を分解して、さまざまな物質を生成すること。調味料、()(もの)、日本酒などがある。

ミジンコや白血球の追いかけっこ—ミクロの世界探究のおもしろさ

顕微鏡(けんびきょう)をのぞいて見える世界には、特別なものがあります。ミジンコのような微生物(びせいぶつ)が自由気ままに泳ぐ姿や、追いかけっこを見ていると()きません。いくつかの生物は、単為(たんい)発生と言って、ふだんはメスがメスを生むというサイクルしかありませんが、栄養不足など環境(かんきょう)中に変化が起きると、オスが生まれ交尾(こうび)して子どもが生まれます。もっと原始的な酵母(こうぼ)などでも、似たようなメカニズムがあります。これはオスの遺伝子が環境(かんきょう)の変化に適応するものを持っていることを意味します。

あるいはヒトの体内には、白血球という免疫(めんえき)をつかさどる細胞(さいぼう)が血液の中を循環(じゅんかん)していますが、これらの細胞(さいぼう)も追いかけっこのようなことをしていたりします。太陽の周りを地球が回るのと同様、原子の周りを電子が回るなど、ミクロでもマクロでも共通する何かが存在することがわかります。

顕微鏡(けんびきょう)があれば、一度のぞいてミクロの世界を探検してみてください。いままで見えなかった世界が開けてくるはずです。

エジソンとテスラ、人間の多様性が新しいモノ・コトを生み出す

※画像作成・提供:平藤 衛さん

19世紀後半にアメリカで活躍(かつやく)したトーマス・エジソン。(かれ)が残したいくつかの言葉は、「あきらめずにトライ・アンド・エラーを続けること」が重要だと伝えています。これは「実験実証※5の考えです。

エジソンは蓄音機(ちくおんき)や電話の開発も行いましたが、中でも白熱電球を開発し、実用化するための事業化に力をそそぎました。その事業の主な仕事は、発電所と送電(もう)をつくることでした。その事業を進めている最中、エジソン電灯会社に一人(ひとり)の若者が入社しました。ニコラ・テスラです。(かれ)はそれまでエジソンが進めていた直流送電の方式に対し、交流送電の優位性を理論科学※6的に説明しましたが、理解されず反対され失職することになりました。

そのことがきっかけで、エジソン率いるエジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーとテスラが率いるジョージ・ウエスティングハウスの間で「電流戦争」が勃発(ぼっぱつ)しました。結果はテスラに軍配が上がり、その交流送電方式は現代にも()()がれています。

「実験実証者」のエジソンは、小学校を中退し、独学でさまざまな分野に興味を持ち、実務と経験から学んだ浅く広い知識のタイプです。これとは反対に、テスラは高学歴の「理論科学者」で、(せま)く深い知識を持つタイプでした。正反対の相手が(たが)いをよく理解せずにぶつかることはよくありますが、この時も同様に確執(かくしつ)が起こりました。

「実験実証者」は、予想と(ちが)うことにも興味を持ち、横展開がうまいので新しい発見が多く、技術革新も起こしやすい人です。それに比べて「理論科学者」は、予想と(ちが)うことは捨てるべきという判断をするため、新しい発見には気が付きにくいですが、より高いレベルの技術を利用し、安定した成果を()ることが可能となります。

エジソンもテスラも、社会に新技術と変革をもたらしてくれました。どちらが正しいというのではなく、さまざまなタイプの人がいてあたりまえです。人間の多様性が、新しいモノやコトを生み出してくれるのです。(みな)さんの中から、新たなエジソンやテスラが出てくるかもしれません。

  • ※5 実験実証:新しい製品や技術などを、実際の場面で使用して、実用化への問題点を検証すること。
  • ※6 理論科学:理論的モデルや数式を元に、実験結果を説明したり、未知の物質の性質などを推論すること。

動画インタビュー 川崎(かわさき)から世界へ向けて!世の中にないものをつくる!

平藤(ひらふじ)さんへのインタビュー動画では、子どもの(ころ)の話、川崎(かわさき)で起業した思い、これからの豊富や(みな)さんへのメッセージをお話いただきました。

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