プラネタリウムと本物の夜空の違い
星を見るなら、本物の夜空の圧倒的なスケールにはかないません。私は、高校二年の時にオーストラリアへハレー彗星を見に行った感動が忘れられません。あの南半球の夜空で見た無数の星が集まって煌めく天の川の迫力を何とかしてプラネタリウムで再現したいという思いが、光学式プラネタリウム投影機「MEGASTAR(メガスター)」開発の原動力になりました。若い頃の体験は強烈に心に刻み込まれ、体験でしか得られないことが心の糧となってその人を形作ります。
しかしプラネタリウムにしかできないこともあります。プラネタリウムでは、時間を操作して過去・現在・未来の星空を映し出したり、星座のイラストを星空に重ね合わせたり、地球上のさまざまな場所や宇宙からの星空だって瞬時に見ることができます。肉眼で一度に見える星の数はおよそ3000個程度といわれています。私達はプラネタリウムという空間で、現実には見ることのできない数の星空や宇宙を疑似体験できるのです。
「MEGASTARの星空は、まるで宇宙空間で見た星空そのもの」
100万個以上の星が投影できる「MEGASTAR」は、私が大学時代に作ったレンズ式投影機「アストロライナー」から進化、発展したものです。より多くの恒星数が投影でき、コンパクトになった「MEGASTAR」は、今では多くのプラネタリウムに採用されています。
日本科学未来館の館長で宇宙飛行士の毛利衛さんから「MEGASTARの星空は、まるで宇宙空間で見た星空そのものだった」というお言葉をいただいた時には嬉しさもひとしおでした。日本科学未来館では、約1000万個の星を投影できる「MEGASTAR-II cosmos」と立体視映像システムが連動したプログラムが楽しめます。
→日本科学未来館
光学式の星とデジタル式の映像を融合した「MEGASTAR-Ⅲ FUSION」
「MEGASTAR-Ⅲ FUSION」は、星の明るさや色を精密に再現してリアルさを徹底追求した光学式投影機「MEGASTAR-Ⅲ」と、あらゆる映像や空間表現を可能にするデジタルプラネタリウムの技術を融合させたものです。
これまでのプラネタリウムでは、光学式で投影した星の上に、プロジェクタで風景やCGの映像を映すと、重なった部分の星が映像に透けて映ってしまいました。しかし「MEGASTAR-Ⅲ FUSION」では、重なった部分の不要な星を消して調整できます。この光学式とデジタル技術の融合により、たとえば星空と山の稜線風景も山に星が重なることなく投影でき、まるで本物の星空を体験するかのような一体感を生みだすのです。
プラネタリウムの技術は、実際に見てもらうことが一番です。ぜひ、かわさき宙と緑の科学館で体験してみてください。
→かわさき宙と緑の科学館(川崎市青少年科学館)
洞窟、スタジアム、病院…「あらゆる場所に星空を」
大平技研では「あらゆる場所に星空を」を合い言葉に、プラネタリウムに関連したイベントも数多く企画・実施しています。プラネタリウムという専門施設から飛び出して、洞窟、スタジアム、商業施設などのさまざまな場所で投影しています。また、社会的取り組みの一つとして、病院や老人ホームなどに星空を届ける活動も行っています。美しい星空を見る機会に触れることで、みんなが宇宙や地球、生命などについて考えるきっかけになればと思います。
あらゆる最新テクノロジーが詰まったプラネタリウムは、音楽や映像などの芸術と組み合わさることで、さらに表現の幅が広がります。演劇やインスタレーションといった芸術シーンでも効果的に活用されており、他にも無限の可能性が秘められています。これからも、さまざまな場所や空間に星空を映し出してまいります。
小さい頃から始まったプラネタリウム作りへの情熱
小さい頃から、宿題や持ち物はすぐ忘れちゃうけど、科学実験やものづくりに夢中になってのめり込む子どもでした。稲を育てたり、花火やロケット製作、何にでも興味があって、自分ひとりで考えて作るのが好きでした。人間関係は苦手なんですが、わからないことがあると大人に質問する行動力だけはありました。家から30分の場所にある川崎市青少年科学館(現・かわさき宙と緑の科学館)の解説員だった若宮崇令さんに会いに行ってプラネタリウムの投影機についての説明を聞いたり、片っ端からレンズ工場に電話をかけて余っているレンズを大量にもらってきたりしている小学生でした。
そこからプラネタリウム作りにのめり込み、大学時代の4年間で足らずに1年間休学してまでレンズ式投影機「アストロライナー」を完成させました。さらに就職と独立を経て「MEGASTAR」開発へつながっていくのですが、小学生の頃から住んでいる七畳間の自分の部屋からいつも私のさまざまなプラネタリウムが生まれました。
10億の星を映し出す「GIGAMASK」で世界一リアルなプラネタリウムを作りたい
2015年に、大平技研と株式会社ソニーDADCジャパン(現・株式会社ソニー・ミュージックソリューションズ)との共同開発によって、世界最多の10億個以上の恒星を投影できる「GIGAMASK」が誕生しました。
「GIGAMASK」は、大平技研のプラネタリウムの技術と恒星データの処理技術と、ソニーDADCジャパンの超精密パターニング技術※1を集結した超精密恒星原板です。ブルーレイディスクなどを作るときに使われる大容量高密度光ディスクマスタリング技術を駆使して、世界最小となる直径180nm(180ナノメーター=10万分の18mm)という極微穴加工技術の開発に成功しました。
この技術によって、肉眼では見ることができない20等星※2という微光星※3までを正確に再現できます。
- ※1 パターニング技術:半導体の加工などに使われる微細化技術
- ※2 明るさによる星の呼び方。夜空で最も明るい星を1等星として、2等星、3等星…肉眼で見える一番暗い星が6等星です。
- ※3 非常に暗く小さく見える星。
実際に10億の星を投影してみて、私自身その透明感ある質感とリアルさに鳥肌が立ちました。
さらに今年、横浜市洋光台にある「はまぎん こども宇宙科学館」に、GIGAMASKを搭載したMEGASTARを納入しました。国内では初公開となります。投影星数は世界最多となる12億個で、目が暗闇に慣れてくると、どんどん見える星の数が増えていきます。是非多くの方に、今までにないリアルな星空を楽しんでいただけたらと思います。
動画インタビュー
大きな夢じゃなくてもいい、自分だけの「好き」があれば
大きな夢でなくていいから自分だけの「好き」を見つけることが大切だと、大平さんは言います。動画インタビューでは、子ども時代の話やもの作りについてお話しいただきました。