半導体や液晶(えきしょう)ディスプレイなどの最先端(さいせんたん)デバイス、欧州(おうしゅう)産の高級生ハムなど、さまざまな事業を手がける株式会社協同インターナショナル。AIRBICには自社クリーンルーム設備を完備し、半導体ベンチャーの試作依頼(いらい)などにも協力し、地域のものづくりを後押(あとお)ししています。代表取締役(とりしまりやく)社長の池田謙伸(けんしん)さんにお話を(うかが)いました。

協同インターナショナルは、何の会社?

2020年に製作した創業50周年記念パンフレットより。協同インターナショナルの歴史や思いを知るための「50のトリビア (雑学的知識)」。ひとつひとつのお話をじっくりと聞きたくなります。

「協同インターナショナルは、何の会社ですか?」と質問する方も多いと思います。
普通(ふつう)なら、IT会社、食品の会社と一言でいえますが、(わたし)(たち)の会社は、電子MEMS※1、IoT※2技術・製品、ライフサイエンス研究のための機材や試薬製造、ヨーロッパの最高級生ハムなどの食品食材、酪農(らくのう)畜産(ちくさん)、バイオマスなどの環境(かんきょう)関連まで、さまざまなジャンルを(あつか)っています。

ちょっと不思議かもしれませんが、(わたし)(たち)にとっては不思議ではありません。業種にこだわらず、「今までなかったモノ」「真似(まね)されないモノ」「自分で価値が付けられるモノ」の製造や販売(はんばい)を通して、お客様の課題の解決やメリットを提供することが、1970年の創立以来の企業(きぎょう)理念です。業種、業態、国境の(かべ)()えて、お客様の課題を解決するオンリーワンの製品を開発する「提案型企業(きぎょう)」をめざしています。

2018年には、経済産業省により神奈川県(かながわけん)の「地域未来牽引(けんいん)企業(きぎょう)※3」に選定されました。神奈川県(かながわけん)の地域経済の中心的な(にな)()として、地域に貢献(こうけん)する企業(きぎょう)活動も行っています。

  • ※1 電子MEMS:MEMSは微小(びしょう)電子機械システムMicro Electro Mechanical Systemsの略。半導体集積回路の技術を応用して、数㎜四方の微小(びしょう)なチップに電子回路やセンサなどを(つく)()んだ部品のこと。自動車やスマートフォンで利用されている。
  • ※2 IoT:Internet of Thingsの略。いままでインターネットにつながっていなかったさまざまな物を、インターネットを(かい)してつなぐ技術。代表的な利用例に、自動運転車、スマートホーム、IoT家電などがある。
  • ※3 地域未来牽引(けんいん)企業(きぎょう):経済産業省が実施(じっし)する地域中核(ちゅうかく)企業(きぎょう)の創出・支援(しえん)に向けた政策のひとつで、今後の地域経済を牽引(けんいん)することが期待される企業(きぎょう)を「地域未来牽引(けんいん)企業(きぎょう)」として選定するもの。
    METI Journal ONLINE「【地域未来牽引(けんいん)企業(きぎょう)】高級食材から最先端(さいせんたん)デバイスまで」

バイオミメティクスは、生物の真似(まね)をするテクノロジー

ハスの葉は、なぜ水をはじくのでしょう?顕微鏡(けんびきょう)で葉の表面を観察すると、(ちょう)細密な凹凸(おうとつ)状の突起(とっき)微細(びさい)構造となっていて、表面についた水などを表面張力によってはじきます。

バイオミメティクス(Biomimetics)という言葉を聞いたことはありますか? 日本語では「生物模倣(もほう)技術」と呼びます。バイオミメティクスは、生物の機能や構造を観察・分析(ぶんせき)して、そこから新しい技術やモノづくりに応用する科学技術のことです。いわば、自然界に存在する生きもののよい部分(形状や性質)を真似(まね)して、技術として活用するのです。

たとえばハスの葉の撥水性(はっすいせい)※4は、水や(よご)れをはじくため、屋根の材料や塗料(とりょう)などに用いられています。(みな)さんが食べるヨーグルト製品に使われているアルミニウムの(ふた)も、ハスの葉にヒントを得て開発された包装材です。だから内蓋(うちぶた)にヨーグルトが付きません。

また、サメの皮膚(ひふ)をヒントに開発された新素材のハイテク水着を着用した選手(たち)が、水泳競技の記録を大幅(おおはば)に上げたことがあります。これは、サメの皮膚(ひふ)が小さな突起(とっき)(おお)われていて、水の抵抗(ていこう)を少なくして泳げることから発想されたものです。

こうして(わたし)(たち)は、生物の特徴(とくちょう)模倣(もほう)して社会に役立つ新技術を作り出しています。

  • ※4 撥水性(はっすいせい):水をはじく性質のこと。

(かみ)()の直径よりもはるかに小さい微小(びしょう)な世界—ナノインプリント

カメレオンの体の色が変わるのは、皮膚(ひふ)細胞(さいぼう)の中にさまざまな色の(つぶ)を持っているから。外からの光や熱に応じて、色の(つぶ)の大きさや組み合わせが変わり、体の色が変化します。獲物(えもの)をつかまえるときや、天敵から身を守るときに役立つ工夫(くふう)です。

当社の電子MEMS事業のうちのひとつ、ナノインプリントのお話をしましょう。たとえばカメレオンの体の色が変わるのは、構造発色※5といいます。カメレオンの細胞(さいぼう)のように色の(つぶ)の構造を持たせて、その大きさや組み合わせを変えると、そのもの自体には色が付いていなくても光や熱があたると、さまざまな色を発することができます。

カメレオンの色変化(いろへんか)の原理を模倣(もほう)するには、ミクロンよりもっと微小(びしょう)なナノメートルの大きさの世界でその構造の型を作り、ハンコを()すように構造をプリントすれば、カメレオンの体の色の構造を人工的に再現できます。

  • ※5 構造発色:物質そのものには色がないのに、光を受けて特定の波長だけが反射・強調されて、発色する現象。生物ではカメレオンや玉虫など、身近なものではコンパクトディスクやシャボン玉などがある。
カメレオンの構造発色の原理を用いたナノマイクロレベルの加工品。9マス並んだ1マス(ごと)に色を染めているのではなく、さまざまな構造をナノインプリントしています。身近な例では、スマートフォンの「のぞき見防止フィルム」などもこの原理を利用しています。発光を正面のみからしか見られないようにコントロールすることで、左右からはスマートフォンの画面を見ることができません。

ナノインプリントは、ナノレベル(1ナノメートルは10億分の1メートル)で、凹凸(おうとつ)のある型を作って()しつけ、半導体やフィルムなどを作ることができます。(かみ)()1本の直径よりもはるかに微小(びしょう)な世界で、さまざまな構造や回路を(えが)いた型から、いくつもの転写スタンプを作っていると考えてもらえばよいでしょうか。これは当社が1975年から電子事業を開始した半導体製造技術を持っていたからこそ、ナノインプリントに応用することができたものです。プラスティックやフィルムにナノレベルのパターンを転写できる企業(きぎょう)は、少なく、世界でも10社程度です。ナノインプリントのメリットは、低コストで開発期間が短く済み、少量からでもできるという点です。

コンピュータの半導体メモリや、ARグラス、自動運転自動車のセンサーレンズなど、さまざまな分野で、ナノインプリント技術が活用されており、これからの社会を支える技術として期待されています。

協同インターナショナルが提供するナノ・マイクロ微細(びさい)加工ファンドリー(半導体デバイス生産システム)。チップ形状、フィルム状の基板などに対してナノ・マイクロレベルのパターニング加工を行う受託(じゅたく)ファンドリーサービスです。

多様性がイノベーション(技術革新)を生み出す

電子部 技術課長の山田 幹さん。大学ではバイオエンジニアリングを専攻(せんこう)。人にものを教えるのが好きで、前職は(じゅく)の講師でした。

協同インターナショナルは、先代の(わたし)の父が商社として創業した会社です。日本における半導体開発の黎明期(れいめいき)に、薄膜(はくまく)材料スパッタリングターゲット※6を輸入したことがきっかけで、自社で半導体の製造加工業がスタートしました。大企業(きぎょう)のお客様が半導体を(ほっ)していたというニーズと合致(がっち)したのですね。当時の半導体は、まさに「今までなかったモノ」だったのです。

その後、半導体の技術を()かして、ナノインプリントを手がけていきますが、これもまた「真似(まね)されないモノ」「自分で価値が付けられるモノ」です。

  • ※6 薄膜(はくまく)材料スパッタリングターゲット:半導体、液晶(えきしょう)パネル、センサー、太陽電池などの電子部品を(おお)薄膜(はくまく)を形成する材料のこと。
ナノインプリントは、フィルムにも転写できます。

(わたし)は文系出身で、思いついたアイデアをすぐ社員にぶつけます。アイデアを受け止めてくれる当社の社員は、前職は(じゅく)やギターの先生など、バックグラウンドもさまざまです。ゴリゴリの理系だけの会社ではなく、文系・理系関係なく多様性がある会社だからこそ、イノベーション(技術革新)を生み出せるのだと信じています。お客様に、世界に名だたるIT企業(きぎょう)や大学の研究者の方々がいらっしゃるのも、当社には(かれ)らにない発想力や魅力(みりょく)があるからだと思います。

生ハムのフィルムにもナノインプリントの技術が使えれば!

当社で販売(はんばい)する「ハモン・セラーノ エシカルパック」は、新たに紙製包材を利用し、パッケージの(うす)さを5mm以下として、80%のプラスチック削減(さくげん)を実現しました。これからの会社は、社会的責任として地球環境(かんきょう)のことも考えていく必要があります。

当社には電子MEMSと食品食材というまったく異なる業種がありますが、実は社内の異業種コラボにも取り組んでいます。生ハムスライスの仕切りフィルムにナノベースの凸凹(でこぼこ)をつければ、さらにはがしやすいのではないかと考えたのですが、残念ながらこれはコストの問題で実用化には至りませんでした。(わたし)も自宅で生ハムを食べながら、なんとかコラボする方法はないものかと模索(もさく)中です。

実は半導体の薄膜(はくまく)技術は、たとえばポテトチップスの(ふくろ)の内側のアルミ部分、紫外線(しがいせん)(さえぎ)るためのビール(びーる)(びん)の茶色や緑の着色にも使われています。身近な生活の中にも、電子製品の技術が応用されているのです。(みな)さんも自分の家にあるものを見て、これってどういう技術なんだろう、もっとよくするためには何が必要なんだろうと考えてみてください。「今までなかったモノ」「真似(まね)されないモノ」「自分で価値が付けられるモノ」のアイデアが生まれてくるかもしれません。

地域牽引(けんいん)企業(きぎょう)として、川崎(かわさき)の名産品「かわさきハーブソーセージ」を開発

さきほど「地域未来牽引(けんいん)企業(きぎょう)」として選定されたというお話をしました。当社は、かわさき新産業創造センター内のAIRBICにも拠点(きょてん)を持ち、川崎(かわさき)市内の企業(きぎょう)同士で情報交換(こうかん)し、半導体ベンチャーが必要とする電子部材や機器の試作を、高付加価値・少量生産・タイムリーな納期で行って、ものづくりの後押(あとお)しをしています。

また「川崎(かわさき)でしか食べられない名産品を作ろう!」という川崎市(かわさきし)様からの呼びかけで、「かわさきハーブソーセージ」の開発・製造プロジェクトに参加しました。

当社の生ハムの加工技術を活用したソーセージ製造を「協同インターナショナル」(宮前区)、ハーブ生産を障がい者福祉(ふくし)農園「はぐるまハーブ園」(麻生区(あさおく))、デザインをデザイン会社「モノプロ工芸」(宮前区)、 企画(きかく)販売(はんばい)を飲食店「すずや」(中原区)という川崎(かわさき)市内の異なる職種の人たちがタッグを組んで試行錯誤(しこうさくご)しながら作った、オール川崎(かわさき)のオリジナル商品です。地域の未来は、こうしたことからも生まれてきます。「かわさきハーブソーセージ」を見かけたら、川崎市(かわさきし)のみんなで作ったんだなと思って食べてみてください。食べた感想をもらえると(うれ)しいです。

動画インタビュー 共感を得る!一人(ひとり)よがりにならないアイデアを

インタビュー動画では、社会課題解決型の企業(きぎょう)姿勢、まわりの共感を得ることの大切さについて語っていただきました。人と(ちが)っていてもいい、まわりに理解されなくてもいい、ユニークな個性を発揮して、あきらめずにがんばってほしいという応援(おうえん)メッセージもあります。

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